「ITインフラを拡張すればするほどハードウェアのメンテナンスなどの運用保守業務やライフサイクル管理が複雑になり、IT資産を保有すること自体にリソースを割かれてしまう」
拡張性や運用管理の課題に対する解決策として広まり始めたのが従量課金制のクラウドサービスだ。ITインフラの煩雑なメンテナンスをクラウドベンダーが肩代わりしてくれる上に、オンプレミスITでは高額になりがちな初期費用が抑えられる。
拡張性や俊敏性に優れるなどさまざまなメリットがある。システム設計や移行に当たり、ITインフラとしてまずはクラウドを検討するいわゆる「クラウドファースト」は一般的なIT戦略になりつつある。
しかし、ことはそう簡単ではない。一から構築する新規Webサービスならばまだしも、基幹業務を支えてきたシステムをパブリッククラウドに移行しようとすると、さまざまな課題がつきまとう。独自の要件に基づいてシステム構築しているケースが少なくない医療業界の場合はなおさらだ。
例えばクラウドサービスは「責任分界点モデル」が前提となる。物理的な施設やハードウェアの管理責任はクラウドベンダーが担うが、そこで稼働するサービスやデータの管理責任はユーザーが担う。この責任分担を踏まえた上で新たなアーキテクチャやシステム構成を設計するには、既存システムとクラウドの双方に関する専門的な知識が必要だ。IT担当者が「一人情シス」のような形で院内のシステムを管理しているようなIT人材が豊富ではない病院にとっては、ハードルの高い作業だ。
もう一つの課題はコストの予測が立てにくいことだ。本田氏は「スモールスタートするだけなら問題ないが、データ量が増えたりより高い処理能力が必要になったりするとコストが増え、適正な予算内に収めることが難しくなる」と語る。例えばCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像法)装置で撮影した画像のように、大量のデータを遠隔バックアップすると、データの転送や保管にかかる費用が想定以上に跳ね上がる。クラウドサービスを選択する場合の難しさの一つは、このようにしてコストが際限なく増えてしまう点にある。